<殺人交差>

 男は女を待っていた。 別れ話を切り出してきた女を待っていた。
 女の新しい男を殺したナイフをポケットに忍ばせ待っていた。

 女が険しい顔でやって来た。
 男の目の前で立ち止まり、瞳を見つめて、抱きついた。
 男は腹に痛みを感じて、その場に倒れこんだ。
 男の腹には包丁が刺さっている。 女はその場を急ぎ足で立ち去った。

 夜明けには雨が降り始めていた。
 女はソファーに持たれかかり、傍らには、睡眠薬のビンが転がっている。
 テレビは、ナイフを持って死んでいる男の傍らで、包丁を持って死んでいる男が発見されたことを伝えていた。
 解説者は、「この二人の男が殺しあったのではないか」と言っている。
 女の意識は消えていく。 そのとき、一輪挿しの薔薇が散った。